採用した社員について(特に新卒)、育成にお困りの企業は多いのではないでしょうか。

私に依頼のあるクライアントも、最初は「採用自体がうまくいかない」と同じくらいの数「採用したが育たない」という課題でお問い合わせいただきます。そしてほとんどが配属した上長、もしくは配属先の新人受入れ姿勢に問題の焦点をあてています。そこで、私自身、複数年数「採用~定着~育成~戦力化」に関わっている企業事例をいくつか紹介したいと思います。経緯と内容については、採用活動で入社いただいた新卒社員は、初期新人研修を私が行い、その後1か月ごとに年末、または次年度3月までの「新人期間」、定期面談をする中での内容です。

 

A社。配属先は工場内のAくん。研修時はいまどきの若者という感じで、やや目上との距離感が掴めないのかもしれないと初期の評価。ただ素直なので、彼自身のペースをこちらが把握して調整したうえで業務遂行させれば大丈夫であると判断。早速配属になったのですが、早々に遅刻してきたことを社内で管理している人事担当から問題視。そして面談の中でわかってきたことは「夜更かしした時の自己管理不足」と「まだよく理解できていない業務への面白味のなさ。大変さが圧倒的に勝っている心理」がありました。

ところが2か月目、一緒の担当場所で働くBさんのことが話の中で頻発。「面白いことばっかりいいながら仕事しているんで時間の経過が早くなりました」「先輩ですけどたまにアホかなと思ったりするんですよ(笑)」「仕事のポイントはしっかり見せてくれます」。その後の面談では、「忙しい時は残業とかが大変ですけどできることも増えて楽しくなってきました」「Bさんと担当場所が離れてちょっと寂しいんですけど昼とかは話すと相変わらずアホなことばっかり言って笑わせてくれます」。最初は引き出すのに大変だったAくんでしたがどんどん話してくれるようになりました。

 

BさんはAくんより一回り以上離れた先輩社員です。Aくんを管理する義務はありません。しかしながら、「入ってきた新人に仕事を教えていく」ことは意識的に行えているわけです。また、ここでは控えますが、若い男性が面白がりそうな話をポンポンすることで緊張を取り去り、親近感を与え、要所要所での仕事はしっかりやって見せるということをおそらく無意識または自然にやっているのです。後に実地研修で配属したC君も、研修終了間際に「できればあと3か月はBさんと一緒に仕事したいです」と話していました。

 

この現場には責任者と現場管轄する「上司」が二人いるのですが、彼らが育成に直接関わるのではなく、Bさんが新人と同じ場で同じ仕事を「おもしろおかしく」やって見せることで、定着から育成への流れに加速をつけているわけです。もちろんBさんの素養は着目する点ですが、利害関係はないものの、新しいメンバーを受け止めてあげるような姿勢の醸成は、現場配属にあたりとても重要なポイントのように思います。

つまり、教育重視すべきは、現場をともにする先輩社員ではないかということです。

 

次の事例につづく。